A:毒沼の主 ケヘニヘヤメウィ
サカ・トラルの中北部には、毒気に包まれた山岳地帯があってね。「毒を吹く口」って名付けたこいつは、どうやらそのあたりから獲物を求めてやってきたらしい。こいつの厄介なところは……まあ名前どおり、毒だ。
物を溶かし脆くする毒や方向感覚をおかしくする神経毒なんかを、手あたりしだいばらまきやがる。人や野生生物にとって大きな脅威だが、毒そのものが環境に与える影響も無視はできない。それだけに早急な駆除が求められているのさ。
~ギルドシップの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
トラル大陸には未だに前人未到の地域が結構な割合で残っている。トラル大陸は地形上南北に分かれるが、両方合わせればエオルゼアのあるイルサバード大陸よりも南北に長い。その広大な大陸をいわばトライヨラ連王国一国でまとめ上げているのが現状だ。
しかもトライヨラ連王国はその国の構成上、多部族の国家とは言っても一つ一つの部族がそれほど大きいな部族なわけではない。総人口を比較してもトライヨラ連王国の人口はエオルゼアの数分の一ほどの人口でしかない。当然国力向上の為にさらなる国土の開拓や整備は政治的なお題目として必ず話には出ているようだが、これだけ広大な国土を開拓していくには圧倒的に人手が足りない。その傾向が顕著なのが北部大陸サカ・トラルである。北部大陸は玄関口であるシャーロニー荒野もまだ発展途上だし、近年まで青燐水が湧く事すら認知されていなかった。シャーロニー荒野を超えるとヤースラニ荒野があったのだが、今は部分的な世界統合の影響で街も環境も状況が混乱していて開拓どころの話ではなくなっている。特にそれより奥地の大陸北部にはまだまだ前人未到の地域が広がり、未知の民族や未知の生物が生息している可能性を残している。
そんなサカ・トラル北部地域の中央部には風向きやエーテルの強い影響で一部地域に限定はされているものの大気に毒気が混じっている地域があるらしい。当然ながらその地域には環境に適応した生態があり、そこで暮らす生物は生まれ持って毒という毒をほぼ無効化させるほどの強い抵抗力、中和力を持っているのだという。
何故未踏の地だったはずの中北部にそんな山岳地方がある事が分かったのかというと、実は近年になってサカ・トラルに現れるようになった魔物がいるのだが、その魔物は山岳地帯から餌を求めてシャーロニー荒野へと移動してきたらしい。見た目はカメレオンに近く、動作もカメレオン同様素早くはないのだが、その体長は5m、体高さは3mを超える超ビッグサイズだ。緩慢な動きで相手を油断させ、様々な効能のある毒を吐いて獲物の動きを鈍らせ捕食するのだが、こいつが多種多様な毒を吐くことから現地では「毒を吹く口」というなんともセンスの欠片もない名前が付けられていた。
「あ~、お気に入りの胴だったのにぃ~~」
相方が動かなくなった魔物に片足を乗せ、自分の胴着に空いた穴に指を引っ掛けて愚痴った。
相方は物を腐敗させてしまうタイプの毒を少し浴びてしまったらしく、胴着の毒が付着した部分に穴が開いてしまった様だ。
「ホント酷い目に遭ったよね」
あたしはやれやれと言った感じで少し首を振って答えた。
「ねぇ…」
相方が首を傾げながらあたしに呼びかける。
「なんであたしに背中向けて後ろ向きで喋ってるん?」
「いやぁ…」
あたしは照れたように頭を掻いた。
「まさか、洋服の表側溶かされちゃって丸出しなん?」
相方はニヤニヤしながらあたしの正面を覗きに近寄って来た。あたしは服は全然無傷だったがなんだかちょっと小恥ずかしい気持ちになってからだの正面を隠した。
「違うよっ、脳からの指令を狂わせる系の神経毒だと思うんだけど、なんだかそっちに向いてるつもりなのに向けないのよ」
あたしはもう一度相方の方を向こうと色々な方向に体を動かしてみたが、どうも体が出鱈目に動いて相方の方にだけ向けずにくるくるその場で回った。脳の指示と体の反応がちぐはぐなのはなんだか不思議でなんとも気持ちが悪い。
「もともと方向音痴だもんねぇ。方向音痴を加速させるタイプの毒なんじゃない?」
腕を組んで考えるような表情をしながら相方が言う。
「そんな都合よく人の得手不得手に効果がある毒なんかある訳ないでしょ、意地悪!」
あたしがべ~っと舌を出して言うと相方はイタヅラっ子っぽく笑って見せた。
シャーロニー荒野